『アンナ・カレーニナ』をゆっくり読む_番外編 1
「『アンナ・カレーニナ』をゆっくり読む」は小説をゆっくり読むことを主題にしているので、ロシア語がわからない方でもわかるような内容を中心に書いています。(けっこうロシア語の話もしているような気もしますが、それはご愛嬌ということで)
しかし原文で読んでいると、どうしても文法的なところや単語について気になったところが出てきます。ということで、番外編を作りました。ここではロシア語の話題中心で書いて行こうと思います。
さて、第8回で引用した文章に次のような部分がありました。
не нашёл жены в гостиной
客間に妻を見つけることはできなかった
この文では、нашёлの補語であるженыはженаの生格を使用しています。
この生格は否定生格と呼ばれるもので、他動詞が否定された場合その補語が生格になるというものです。しかし、なんとなく違和感があります。これって、対格のженуになるのが普通なのでは?と思います。
最近、原求作先生の『ロシア文法の要点』(水声社、1996年)を読んでいたら、否定生格について次のような記述がありました。
補語が具体的なものであれば、他動詞が否定された時、補語は対格
補語が抽象的なものであれば、他動詞が否定された時、補語は生格
(『ロシア文法の要点』、p29)
つまり原則に則れば、今回解説している部分は、やはり
не нашёл жену в гостиной
になるということです。しかし、時代を遡ると具体的なものを補語にとる場合に性格を使用することが多いようで、以下のような例が『ロシア文法の要点』ではひかれています。
Пьер не заметил Наташи, потому что он никак не ожидал видеть её тут, (Л.Толстой: Война и мир)
(『ロシア文法の要点』、p30)
ちょうどトルストイの別作品からの文章が例になっています。(股引きになってしまって申し訳ないのですが、手元に『戦争と平和』の原文がありませんでした)ここでは、заметилの補語がНаташиと生格になっています。ナターシャは具体的な人物名ですが、対格ではなく、生格が使用されています。ただ、現代ロシア語的には、違和感のある用法になるようなので、自分で話したりする場合は上で引用した原則に則った方がよさそうです。
今回参考にした『ロシア文法の要点』には、色々と面白い用法が載っていて、とてもためになる本だと感じました。文法を一通りやった方は、新しい言葉の用法に触れることができ、脳に刺激ががんがん来るので、おすすめです。