『アンナ・カレーニナ』をゆっくり読む 4
ロシアの小説を読む時に、一番難しいのは人名だと思います。これは、色んなところで言及されているので、間違いない。ロシアの文化に精通しているプロロシアファンでなければ、ロシア文学を読んでいて、人名の難しさという壁に当たらない人はいないのではないでしょうか。
На третий день после ссоры князь Степан Аркадьич Облонский – Стива, как его звали в свете, – в обычный час, то есть в восемь часов утра, проснулся не в спальне жены, а в своём кабинете, на сафьянном диване.
言い争いから三日目にステパン・アルカーヂイチ・オブロンスキー公爵—スチーヴァと世間では呼ばれていた-はいつも通りの時間、つまり、朝の8時に、妻の寝室ではなく、自分の書斎のモロッコ革張りのソファの上で目を覚ました。
これは昨日読んだ部分ですが、オブロンスキーのフルネームと愛称が書いてあるので、少し解説してみましょう。
ロシア人の名前は3つの部分から構成されています。それは「名(Имя)」「父称(Отчество)」「姓(Фамилия」です。
オブロンスキーの名前を例にとると「名」はステパン(Степан)、「父称」はアルカーヂイチ(Аркадьич)、そして「姓」はОблонскийとなります。
ロシアでは敬意を込めて他人を呼ぶ際には「名」と「父称」を使用します。オブロンスキーに呼びかける時は、「ステパン・アルカーヂイチ(Степан Аркадьич)」と呼びかけると、「ステパンさん」という意味になります。
この父称というのは日本人になじみがないものですが、これは「~の息子、娘」を表す部分で、父親の名前から作られます。
基本的な作り方としては、息子の場合は父親の名前+ович、あるいは+евич娘の場合は+овнаあるいは+евнаです。
オブロンスキーの場合は、父親がアルカーヂイ(Аркадий)という名前だったのでしょう。(普通につくると父称はАркадьевичですが、音に引っ張られて小説ではАркадьичとなっているようです。)
さて、それに加えて今回引用した文ではスチーヴァ(Стива)という名前も出てきました。これは、愛称で、日本のあだ名みたいなものです。愛称は名前をもとにつくりますので、ステパン(Степан)のス(С)をとって、スチーヴァ(Стива)になるわけですね。
さて、この愛称が曲者で、トルストイは「オブロンスキーは世間ではスチーヴァと呼ばれているよ」と書いてくれていますが、これは親切設計です。ほとんどの場合、なんの断りもなしに、愛称が突然出てくるので、誰が誰に呼びかけているのか、よくわからなくなる原因になっています。もちろんロシア人にとっては、普通の事なので、私たちが勝手にわからなくなっているだけなのですが。
ここまで説明したことを踏まえて作品を読んでみると、なんとなくロシア文学における人名の難しさが軽減されたように感じるのではないでしょうか。
私も未だによくわからなくなるときがあるので、軽減されたように感じるだけかもしれませんが…。
- 現在地 第1部第1節
オブロンスキーの浮気が発覚してオブロンスキー家は大混乱