『アンナ・カレーニナ』をゆっくり読む 3
『アンナ・カレーニナ』は、ロシアの小説家の中で、おそらく最も有名であろうトルストイの作品です。1875年から1877年にかけて雑誌連載という形で発表されたと「光文社古典新訳文庫」の『アンナ・カレーニナ1』の解説には書いてあります。
『アンナ』はトルストイの代表的長編小説の1つである『戦争と平和』の後に書かれた小説です。小林秀雄が「トルストイを読みたまえ」と、どこかで書いていた記憶がありますが、その際に指示されているのは『戦争と平和』の方でした。自分は『戦争と平和』も好きですが、『アンナ』の方が思い入れの強さもあるので、よく読み返したり、話題にしたりするのは『アンナ』方です。
小説の舞台になっている1870年代のロシアでは、まだ身分制度があり、登場人物のほとんどは貴族階級の人間です。今日は家庭教師と浮気をして、てんやわんやな状態のオブロンスキーが起床する部分を読みました。
На третий день после ссоры князь Степан Аркадьич Облонский – Стива, как его звали в свете, – в обычный час, то есть в восемь часов утра, проснулся не в спальне жены, а в своём кабинете, на сафьянном диване
言い争いから3日目にステパン・アルカーヂッチ・オブロンスキー公爵—スチーヴァと世間では呼ばれていた-はいつも通りの時間、つまり、朝の8時に、妻の寝室ではなく、自分の書斎のモロッコ革張りのソファの上で目を覚ました。
オブロンスキーは大金持ちと言うほどではないと思います。いろんなところで家計が厳しそうな話が出てくるので、貴族としては貧乏な方なのかもしれません。しかし、やはりいい生活をしていて、モロッコ革張りのソファ(сафьянный диван)など、それを表していると思います。
いつも読み飛ばしてしまうのですが、改めて読むとモロッコ革ってなんだろうと思い調べてみました。モロッコ革はヤギの革で、よく本の装丁に使用されていたそうです。高級品で、独特のしぼが表面に現れるのが特徴で、その模様が美しいのだとか。
そんな高級革を張ったソファで寝ているなんて、うらやましい生活と思うのですが、オブロンスキーの状態はまったくうらやましいものではないのですね。ソファで寝ているのは寝室で寝られないせいなのですから。
こんな風に、一つ一つの小物に目を向けられるのも、ゆっくり小説を読む良い点だなぁ、としみじみ感じたのでした。
- 現在地 第1部第1節
オブロンスキーの浮気が発覚してオブロンスキー家は大混乱