『アンナ・カレーニナ』をゆっくり読む,  読書日記

『アンナ・カレーニナ』をゆっくり読む 2

Всё смешалось в доме Облонских.

オブロンスキー家はすべてがめちゃくちゃだった。

 書名は『アンナ・カレーニナ』ですが、このアンナが出てくるのは、小説がけっこう進んでからで、最初はオブロンスキー家の様子が語られます。最初に、「幸せな家族は...」と大きな主題を提示しておいて、一気にめちゃくちゃな状態のオブロンスキー家に読者を突き落とすところは、小説のつくりとして流石だと思います。一体何が起こっているのか、読者はそれを確かめずにはいられません。

 オブロンスキーと雇われのフランス人家庭教師の浮気が発覚し、彼の妻のドリーが「もう夫と一緒には暮らせない」と宣言する。オブロンスキー家はてんやわんやという最初の段落。読み返してみると、オブロンスキー家にはフランス人家庭教師もいたし、イギリス人もいるし、帝政ロシアには、色んな人種が住んでいたことがわかります。

 ヨーロッパ式の教養を身に着けるために、ロシア貴族はフランス語も英語も身に着けることが是とされた時代。ロシア語よりもフランス語が上手なロシア人もいたというのだから驚きです。そんな時代を反映して、トルストイも時々、フランス語の文章を小説内に登場させます。

 フランス人もイギリス人もいるんだなぁ、と思っているところに次の文章が続きます。

Чёрная кухарка и кучер просили расчёта.

黒人の料理人と御者は清算を要求していた。

 「黒人まで登場して、本当に色んな人々が住んでいたんだなぁ」と思ったのですが、日本語で読んだ時にここで黒人が登場した記憶はなかったので、辞書を引いてみました。

 実はчёрный(黒い)という単語には、「下働きの」といった意味があるようで、ここではこちらの意味だと思います。なので、正しくは「下働きの料理人と御者は清算を要求していた」。

 黒人と言えば時代はすこしズレますが、帝政末期にロシアに渡りナイトクラブの興行で巨万の富を築いたフレデリックという人物について書かれた『かくしてモスクワの夜はつくられ、ジャズはトルコにもたらされた』という本があったことを思い出しました。まだ、読めていない本の1つです。小説を読んでいると読みたかったのに読んでいない本を突然思い出すことがあります。思い出すと気になってしまって、今読んでいる本を中断して、気になった本の方を読み始めてしまうので、なかなか本筋が進まなかったりします。そんなこんなで脇道にそれながら、読書してきた人生だったのでした。

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